「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.714~私の好きな1曲①~】
この正月も終活活動の一環としてCDや書籍整理に励んでいたが、CDに関して言えばどのアルバムも結構愛着があり、無碍に扱えない。特にこれは...などと思ってアルバムを聴いてしまうともうダメ、ほとんどが残しておくと言うことになる。まあしかしそうしたアルバムの中には本当に懐かしい想い...のものも多く、1&2曲聴いているとその時代のことがいろいろ想い出され懐かしくもなる。やはりチャンジ―(爺さん)なのだなーとつくづく思い知らされるひとときだ。
と言うことでこれからは、このジャズコラムでも「ぼくの想い出の1曲...」ということで、時々懐かしの想い出名曲を紹介していくことにしたい。「ジャズに名演あれど名曲無し...」などという格言(?)がかつてあったと思ったが、これは曲ではなく演奏の方に比重が掛かった言葉。「ジャズはアドリブ演奏が全て...」と言った趣旨の言葉の筈だが、ある面で当たっていてもいささかオーバーな表現ではある。ジャズの世界でも~ジャズメンのオリジナルをメインに考えても...名曲は多数存在しており、そのメロディーに思い起こされる所も多々なのである。
そんな想い出のジャズ名曲の一つに「ザ・タイム&ザ・プレース」がある。ジャズブラザーズで最も有名なものの一つ、ヒース・ブラザーズ(パーシー、ジミー、アルバート兄弟)の次男でサックス奏者のジミー・ヒースが書いた、威勢の良いファンキー調ナンバーである。ジミー・ヒースは演奏活動と同時に長年NY州立大学でジャズを教えており、なんと2020年迄生きた長寿の人でもあった。サックス奏者と同時に作・編曲の才にも秀でており数々の名曲を残しているが、60年代の後半に書かれたこの曲はファンキーチューンとして最も優れたものの一つだと思う。彼がトランぺッターのアート・ファーマーのグループに参加していた時に吹き込まれたアルバム(67年)のタイトル曲で、このアルバムはかなりなヒットを記録しており、ぼくも大好きなアルバムの一つでもある。
この曲を久し振りに聴いたのはこの正月、アルバム整理をしていた時に日野ちゃん(日野皓正)の2000年のアルバム『トランスフュージョン』を見付け、その中に収められたこの曲を久し振りに耳にしたのだった。ファーマーとジミー・ヒースの共演でおなじみだけに、ここでの日野ちゃんのワンホーン演奏が何かしっくりこない...と思っていて急に思い出した。和ジャズの歴史を形作った日野ちゃんのオリジナルクインテット、確か1968年のことだと思ったが、出来たばかりの新宿ピットインでこのクインテットを初めて聴き、日野~村岡健の2管編成によるこの曲のテーマからアドリブに至る、凄まじい迄の迫力とその余りの恰好の良い演奏、それが直ぐに想い起されたのだった。全てがヒリヒリとしてスリルと興奮に溢れたあの頃の日々。夜な々新宿のジャズ喫茶を回り歩き、ピットインで興奮の極みを味わい尽くした毎晩。もうはるか遠い日々になってしまったが、あの興奮の日々は確かに在った。
日野ちゃんのアルバムは2000年にNYで吹き込まれたもので、ロン・カーターやジャック・ディジョネットなど当時の超一流のミュージシャンと共にワンホーンで吹き込んだもので、プロデュースは何と早稲田ジャズ研の後輩、渡辺耕蔵君が担当しているではないか...。ワンホーンでの演奏自体は悪くないのだが、やはりここは2管で果敢に攻めなくては...。かつての相棒=村岡健も今はもういないはず。それにしても日野~村岡コンビは凄かった。時代の風をあんなに見事に吹きまくるとは...。もうあんな演奏は二度と...。そんなことを嘆いても詮無きこと。チャンジ―はその想いだけを抱えて...。寂しくもこれもまた厳然たる事実なのである。それにしても「ザ・タイム&ザ・プレース」いい曲です。皆さまも是非一度...
【今週の番組ゲスト:ピアニストで作編曲家の立石一海(かずみ)さん】
最新作『Kazumi Tateishi Trio meets Beautiful Stanards』から
M1「Raindrops Keep Fallin' on My Head」
M2「I'm In the Mood For Love」
M3「Tokyo & Seoul Song」
M4「My Foolish Heart」