「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.692~軽井沢安東美術館】
前々から行きたいと思っていた軽井沢安東美術館に先日行ってきた。あの日本が世界に誇る画家~藤田嗣治(レオニード藤田)の作品だけを展示する、世界でも珍しい個人美術館...と言う謳い文句。昨年の秋にオープンしてかなりな評判を呼んでおり、我がジャズ番組の主役~山本郁などはオープン直後に東京からわざわざ出向いたと言う...。彼女のその心意気や良しである。
この美術館は軽井沢駅の程近く、あのジャズフェスなども開いた大賀ホールの直ぐ裏と言う、絶好のロケーションに位置する。建物も中々にユニークで目立つし、なにせオーナーの安東氏は金融関係で成功を収め、その筋ではかなり知られた人物でもある。その彼と夫人とが初めて手に入れた藤田の小品(館で展示もされてもいる)に強く魅せられ、以降その作品の収集に励みその藤田作品がかなりな数に上った(180点を超すとされる)ので、多くの人にも...と考え彼の自宅で鑑賞する感じでの個人美術館...をと、昨年秋にこの美術館を作り上げた次第。
館の紹介ビデオでは「ここには藤田が大事なモチーフとした、少女と猫、そして聖母像しかありません...」とあるが、確かにその3つがメインになっており、これに絞ったというのは個人美術館としても中々に妥当だし、安東夫妻の藤田作品への偏愛振りも窺え、興味深いところ。ただ訪れたのは7月末で終戦記念日も間近いこともあり彼の作品(彼が永久に日本を離れる切っ掛けともなった戦争協力の問題)の戦意高揚画も飾られてはいた。ただその横の説明書きなどを読むと、今回初めて知ったのだが彼の父親は軍のお偉いさんで、血縁にも軍人関連も多い...と言う結構な軍人一家。そこに藤田嗣治と言う全く異色の天才の存在があったことで、あの戦意高揚の時代だけでなく彼の個人的事情もその戦争協力画には大きく関係していたのだと...、それなりには納得出来るものでもあった。
ところでこの安東美術館のメインになっている少女像、と言うよりも少女のポートレートはどれも表情豊かで素晴らしいものばかりだが、また同時に驚くほど今日的な意味合い~現代の漫画=世界に通じるTheMANGAの世界に登場する少女達(凡百のそれでは無いが...)にもなにか通底する所も伺え、その点でも大変に興味深いものだった。もう一つの猫に関しても「ぼくが関心あるのは高級な猫ではなく、平凡な家猫でも野良猫でもいいんだ...。彼らを見ていると描きたくなる...」と言うことを語っていたが、その愛情籠った眼差しで描かれる猫達の姿は実に活き々としており、生命感に溢れ蠱惑的でもある。そして猫達を擬人化した猫の教室図も、この天才の持つある種のユーモアが漂っておりこれもまた良しである。
藤田として最高の作品としてぼくが考えるのは、戦時下の秋田の素封家の家に疎開していた時代に描かれた「秋田の祭り」である。悶々として鬱屈していたこの秋田時代に描かれたこの作品、秋田の県立美術館に飾られている壁一面覆うこの大作を初めて見た時には、本当に驚かされたものだった。だが今回の安藤美術館の作品=少女・猫・聖母像は、これの対極にある愛らしくも心和まさせるものが殆どで、あの充実と狂騒の1920年代=「エコールド・パリ」の中心人物として活躍、欧州の絵画好き達を驚嘆させたセンスの塊のような藤田を知るには、ある意味で好個のものだとも言えそうだ。
人生の晩年は日本で知り合った君代夫人と添い遂げた藤田だが、時代の寵児ともいえるこの画家は女性にもてたことこの上なし、生涯3度程フランスやスペインの絶世の美女達と結婚・離婚を繰り返し、人生を心行く迄謳歌するかなり恵まれた生き様だった筈。皆様ももしお時間があれば、日本が世界に誇るこの巨星の作品だけを集めた個人美術館、軽井沢の一等地に立つこの館で、藤田作品を一度は覗いてみるのも一興だと思います。
【今週の番組ゲスト:3週連続ラテン特集③ ラテントランペッターの竹内悠馬さん】
新譜『Impluso』より
M1「isla dorada」
M2「Al mal」
M3「おはらぶし」
M4「Impluso」