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たまにはここでも競馬の話を、中野雷太です。

 3冠の期待かかるオルフェーヴルの登場により、今年は注目度の高いこのレースも、直近の4回は、まるでそんなことも無かったように思います。牝馬のウオッカがダービーを勝った07年からの4回、ダービー馬が出走することの無かったこのレースは、「最も強い馬が勝つ」と言われたかつてのような、世代最強を決める一戦というムードは、正直あまり感じられ無かったように思います。

 僕が初めて菊花賞をテレビ観戦したのが94年秋、そう、ナリタブライアンが圧勝し、3冠馬となった時のこと。前夜、バーでのアルバイトをこなし、当然のように?朝まで飲んでいた20歳の自分。レース当日、ふと目が覚めると、発走時刻をゆうに過ぎていました。「やばい!」そう思ってテレビをつけると、すでにレースは2度目の坂の下り。直線抜け出すナリタブライアン、それに対し「弟は大丈夫だ」と語る杉本清アナ。その瞬間は、その意味がよくわかりませんでした。ですがその前の週、初めてテレビ観戦した天皇賞(秋)で、「絶対負けないから」とバーの先輩に言われたビワハヤヒデの敗戦を思い出し、「なるほど」と、ようやく理解できたのは、その数時間後のこと。そうです、まさに94年秋が、僕と競馬との出会い。そして当然ではありますが、この頃、まさか後に、自分が菊花賞に携わる人間になるなんて、夢にも思っていませんでした。それどころか、アナウンサーに、それも競馬実況アナになるなんてことも、全く思っていませんでした。

 ですが、そこから競馬に興味を持ち、毎週テレビで観るようになった自分。翌年秋のオールカマーが台風の影響で月曜日に行われたことが、まさに人生の分岐点。ナリタブライアンの3冠達成の翌週に、エリザベス女王杯(当時はこういう競馬番組だった)での大接戦を制したヒシアマゾンに興味を持ったこと、その馬を一目見ようと、大学の試験を捨てて?中山競馬場に向かったことが、僕の人生を変えたのでした。

 その頃からしばらくの間、僕の中で最も好きなレースは、断然「菊花賞」でした。なんだかんだで、世代の「最も強い馬が勝つ」ことには、過去を振り返ってみても(当時の)変わりなかったように思っていたからです。ところが、97年の入社以降、すぐさまそのムードは変わったように思います。以後の菊花賞、歴史を振り返ってみても、「最も強い馬が勝った」のは、3冠馬が誕生した05年含めいくつか、と言っても過言では無いほど、その位置づけも変わってしまったように思います。そして3冠がかかる年以外、ダービー馬が出走すらしないレースへと、すっかり変わってしまいました。長距離よりもスピード重視、距離は2400mまで。時代の流れと言ってしまえば、それまでかもしれません。でも、心の中では「最も強い馬が勝つ」菊花賞を目の前で観てみたい、ずっとそう思っていました。

 2年前の今頃、栗東トレセンで、僕に対して菊花賞をはじめとする長距離戦の重要性を語ってくれた調教師がいました。「長距離戦があるからこそ、馬も人も鍛えられるのです。どうやったら、あの舞台を克服できるのか。それを考えて調教していく過程は、馬にも人にも、非常に重要なのです。だからこそ、ここから逃げてはならない。ここを克服してこそ、人も馬も、本当に強くなれるのです」。その方は、そう僕に語ってくれました。その方とは、今オルフェーヴルを管理する池江泰寿調教師。あの言葉、それを語る師の表情。競馬アナである僕にとって、あの言葉は、一生忘れられない、大切な宝物です。

 今年は久々に、菊花賞の真髄が見られそうです。今日は12日(水)、本番まであと11日。気がつけば、菊花賞の実況も5度目となりました。初めて経験する、ダービー馬のいる、それも3冠の期待かかる菊花賞、存分に楽しみたいと思います。

 そして全てが終わった後、大先輩・藤田直樹アナらと一緒に飲めるビールを、ただただ楽しみにしています。その味ももちろんですが、皆と一緒に、心から笑える自分であるように、そう思っています。


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