皆さんは自分の立ち姿や歩く姿に自信をお持ちだろうか。僕は全くもって自信がない。今から四半世紀ほど前、全国の放送局を受験していた時にあるテレビ局でモニターに自分の歩く姿が映っていた。非常に格好の悪いものだった。客観的に見るとあんなに自分は不格好なのか。非常に落ち込んだものだ。
歩く姿が美しいと感じるのは役者さん。特に伝統の歌舞伎の世界で育った人たちは年齢を問わず歩く姿が美しい。しかも美しさのバリエーションを沢山持っている。
先日まで東京渋谷のパルコ劇場で新作歌舞伎「決闘!高田の馬場」が上演されていた。若手の役者の文字通り疾走する芝居なのだが、主役の市川染五郎の特に走る姿の美しさと言ったらそりゃもう言葉に表現できないほどのものだった。
数年前の正月に藤娘を舞った染五郎は思わず一目ぼれしてしまうほどの美しさだった。歌舞伎調のロック時代劇「阿修羅城の瞳」に染五郎が主演した際には相手役の天海祐希の歩き方が男っぽいので女性の歩き方を教えてやったのだという。男を演じても女を演じても双方の色気を表現できるのだから全くもってうらやましい。
役者の美しさの秘密は恐らく動きの中の「タメ」なのだと思う。タメが決め手となるのは喋りの美しさも同様だ。立ち姿や歩く姿では到底役者さん達に太刀打ちできそうにないが、喋りの中で少しでも伝統の歌舞伎の世界の美しさに近づいてみたいと最近思っている。
染五郎の父君の幸四郎さんや吉衛門さんが若い頃から醸し出していた男の色気。それを少しでも僕の喋りで感じて貰えるようになれないか。
やっぱり無理かな。
(佐藤 泉)
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