お知らせ:

競馬実況web

始めよければ、半ばの成功―まさにレースにぴったりの言葉。スタートがいかに大事かは、全ての競馬関係者が言うところですが、パトロームフィルム等で改めて見ると確かに納得できます。外枠の各馬が次から次へと内に殺到し、何とか有利な内枠に付けようとしています。とりあえず、スタートしてから最初のコーナーに達するまでその争いが続くのがパターンですが、好スタートを切れば、無理なく自分の望んだポジションを得ることが出来るのは道理で、スタートが良いか、そうでないかは勝敗に大きく関わってきます。

 このスタートの巧拙は、まず馬の性格が大きく作用します。臆病な馬、カッとしやすい馬などは、完全に騎手の指示を無視して後ろ扉にもたれたり、ゲートの開く前に突進したりしてタイミングを外してしまいます。それから大事なポイントとして言われるのが、騎手の果たす役割です。スタートのセンスが優れているか、そうでないかは何時しかファンの間にも浸透していきますね。かつての武邦彦、増沢末夫という人達は“名人”と言われるほどでしたが、1000勝を挙げるようなジョッキーはいずれもスタートセンスの優れた人と言ってよいでしょう。

 さて、そのスタートのタイミングが上手く合わず、悩んでいる騎手は多いのですが、特に今年デビューした新人騎手は実戦のキャリアも少なく、苦労しているようです。デビューして1ヵ月半ほど、34戦目でJRA初勝利を記録した高野和馬騎手もその一人。彼は1回中京の初日がデビュー戦。乗り鞍もまずまず揃っていましたが、3週間を経た段階で師匠の小桧山調教師に伺ったところ、やはりスタートで上手く流れに乗りきれず苦戦しているとのことでした。こうしたテクニックというのは感覚の領分に属するもので、言葉や手を取って教えるものではないようで、本人が体で覚えるしかないようです。その時の小桧山調教師の表情がやや曇りがちだったのは、高野騎手を乗せるにあたって許可を出してくれた馬主さんへの責任感があったからではないかと思います。レースに乗らないことには若手騎手は育ちません。それでもやっぱり勝負の世界ですから、いつまでも我慢してもらえるか、小桧山調教師の苦しい立場がそれとなく分かりました。

 2月の競馬学校の卒業式の日、小桧山調教師は奥様同伴で出席されていました。そして、高野騎手のご両親に「これから和馬君を貰い受けます。そのために今日は女房と一緒に来ました」と告げたそうです。最近は競馬学校の生徒の引き受け手が少ないという傾向の中で、いい話を伺ったものです。古き良き厩舎制度の伝統は生きているんだと感じました。4月18日に記録した高野騎手の初勝利。ご本人にはもちろんですが、まずは小桧山調教師夫妻に申し上げたいと思います。


お知らせ

お知らせ一覧