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先日、雑誌「サラブレ」の企画で杉本清さんと対談する機会がありました。杉本さんは私の8年先輩にあたり、それだけ長い間実況されているわけですから、私ではお相手として役不足の感はありましたが、杉本さんとじっくり対談ができるという魅力に負けて喜んでおひきうけしてしまいました。

 杉本さんと初めてお逢いしたのは、昭和49年春、私が大阪支社に勤務した時のことでした。辛辣なマスコミ関係者でも悪く言う人がいないくらい、温厚で本当に気さくな方でした。いつも馬券売場で、〆切り直前までオッズの画面を見つめていた姿が印象に残っていましたが、馬券はかなり上手でした。でも最近はどうなんでしょう・・・。

 さて、杉本さんとの対談は「語り継ぎたい名勝負」というテーマでした。その時々の名勝負の話になると、ついついボルテージが上がって3時間ちかく話しこんでしまいました。サラブレ編集部の方は、その後が大変だったろうなと思いましたが、それはサラブレ4月号の方で御覧頂くとして、私にとっては非常に有意義な時間となりました。

 杉本さんといえば、テレビにおける競馬の実況スタイルを完成させた人という風に常々思っていました。かってTV放送が始まったとき、スポーツアナウンサーは一様に動揺したそうです。実際に無いることのできない人の為に、動きを描写していくことが実況アナウンスだったわけですが、画面にハッキリ写し出された映像を説明するようなアナウンスは全く無意味ですから「これから、どうすればいいんだ!」という当事のアナウンサーの方々の気持ちはよくわかります。

 競馬の実況も、しばらくはラジオの実況のスタイルを踏襲し、その後少しずつ変化してきているわけですが、どうしても実況する個人の力量やセンスがラジオ以上に問われるような気がします。画面を見ている人の邪魔にならないように、なおかつより理解しやすいように、更には臨場感を盛り上げていく為には、それぞれのレースの性格を把握し、重要なポイントを理解していなければ、なかなかできないことです。もちろん競馬の造詣も大事ですし、そのレースの特徴を素早く掴み、ポイントを見極めていくレースの見方が、非常に大事な要素になってきます。

 その上で表現する言葉を組合わせていくわけですが、ファンの心に響く実況にしていくのは、なかなか大変なことです。杉本さんの数多くの名実況が生みだされてきた裏には、こうした作業が緻密に組み立てられてきたのですね。長い対談でしたが、常々思ってきたことが、杉本さんの言葉で実際に伺えて興味深い時間を過ごすことができました。

 競馬を担当するアナウンサーの間では「面白くないレースを面白くすることは、アナウンサーにはできない。しかし、面白いレースをつまらなくするのはアナウンサーだ」という言い伝えがあります。そうなんです。その為に随分おちこんだことがあります、事実と共にその興奮、感動を伝えるのがいかに難しいか、改めて感じた一夜でした。


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